こんにちは。大阪府箕面市の「リユニス訪問看護ステーション」代表の濱崎です。

前回の前編では、「栄養を取る方法」の選択肢のうち、胃腸を使う「経管栄養(経鼻経管・胃ろう)」のリアルについてお話ししました。 後編となる本日は、もう一つの選択肢である「② 点滴(血管を使う方法)」、そして究極の選択とも言える「絶食(医療的な栄養補給を行わない選択)」が持つメリットとジレンマについて、現場の視点から実直にお伝えします。

胃腸が使えない時の砦「② 点滴(血管を使う方法)」

何らかの理由で胃や腸が動かない、または経管栄養のチューブをどうしても抜いてしまうといった場合、医療現場では「血管から栄養を入れる点滴」が提案されます。 これには大きく分けて2つの方法があります。

1. 末梢静脈栄養(一般的な腕からの点滴)

  • メリット:腕の血管に針を刺すだけなので、最も手軽に始められます。手術の必要もありません。
  • デメリット・現場のリアル:実は、腕からの点滴では「1日に必要な栄養や水分」をすべて補うことはできません。長期間続けると血管がボロボロになり、何度も針を刺し直すご本人の苦痛が増してしまいます。また、水分が中心となるため、水分過剰による「むくみ(浮腫)」や胸水・腹水が溜まり、逆に息苦しさを生むジレンマもあります。

2. 中心静脈栄養(高カロリー点滴 / IVH)

  • メリット:首や鎖骨の下、鼠径部あるいは腕の付け根から、心臓に近い太い血管までカテーテル(管)を通します。これにより、生きていくために十分な高カロリーの栄養を24時間持続して体に入れることができます。
  • デメリット・現場のリアル:管を入れるための小手術が必要です。また、カテーテルの挿入口から細菌が入り、全身の深刻な感染症(敗血症など)を引き起こすリスクが常に伴います。カテーテルの感染を起こすと、感染そのものや、入れかえの処置など更なる負担を余儀なくされることがあります。(基本的に挿入時間が長くなればなるほど感染率が上がるとされています。)
  • 腕の点滴同様、ご本人が認知症などで管を抜いてしまう危険がある場合、やはり「ミトン(抑制帯)」で手を制限せざるを得ない局面があります。

究極のジレンマ:「あえて食べない・命の尊厳を守る」という選択

点滴も経管栄養も難しい、あるいは「これ以上の医療処置はご本人を苦しめるだけではないか」と悩んだ末に行き着くのが、医療的な栄養補給を行わず、自然な看取りへと向かう「絶食(自然な看取り)」という選択肢です。

「栄養をあげないなんて、餓死させてしまうようで可哀想…」 そう自分を責めてしまうご家族は非常に多いです。しかし、高度急性期や慢性期の現場で多くの最期を看取ってきた私だからこそ、はっきりとお伝えしたい事実があります。

終末期のご身体は、栄養や水分を受け付ける力をあえて落とすことで、脳内にエンドルフィンというモルヒネのような物質を分泌させます。これにより、実は苦痛を感じにくく、穏やかな眠りにつくことができるのです。

逆に、身体の機能が閉じようとしている時に無理に点滴や栄養を流し込むと、処理しきれない水分が肺に溜まって溺れるような苦しさを生んだり、痰が増えて何度も吸引を余儀なくされたりすることがあります。 「命をつなぐための医療」が、時として「苦痛を長引かせる処置」に変わってしまう――これが、医療現場における最大のジレンマです。

⚠️ 善意が牙をむく「リフィーディング症候群」の恐怖

もう一つ、医療現場や在宅医療で絶対に知っておかなくてはならないのが「リフィーディング症候群(Refeeding Syndrome)」という代謝の合併症です。

長期間、まともに食事が摂れず栄養不良状態(プチ飢餓状態)になっていたお身体に対して、「栄養が足りないから」と急激に高カロリーの点滴や経管栄養を注入すると、お身体がその急激な変化に耐えきれず、心不全や呼吸不全、重篤な不整脈などを引き起こし、最悪の場合は命を落としてしまうことがあります。

「良かれと思って施した栄養補給が、ご本人の心臓を止めてしまう引き金になる」――これが医療の現実です。だからこそ、飲み込む力が落ちた後、どのタイミングで、どれだけの栄養を、どれだけのスピードで体に戻していくかには、極めて緻密なアセスメント(評価)と段階的なリハビリが必要不可欠なのです。

正解のない選択だからこそ、元気なうちに紡ぐ「物語」

経管栄養、点滴、あるいは自然な看取り。どれを選んでも、そこに「間違い」はありません。ご家族がご本人の幸せを想い、悩み抜いて出した結論のすべてが正解です。

だからこそ、肺炎などの急病で病院のベッドに横たわり、心に余裕がない状態で決断を迫られる前に、元気なうちから「もしもの時はどうしたいか」をご家族で話し合い、物語の1ページとして書き記しておくこと(ACP:人生会議)が本当に大切なのです。

リユニスがあなたのご家族に伴走します

私たち「リユニス訪問看護ステーション」は、国立循環器病研究センターをはじめとする急性期から慢性期までの最前線で培った豊富な経験があります。単に医療処置を行うだけでなく、ご家族が直面する「意思決定」のプロセスにどこまでも心を尽くして寄り添います。

お一人で、ご家族だけで悩む必要はありません。どのような小さなお悩みでも、まずはリユニスにご相談ください。皆様の「自分らしい物語」を、私たちと共に紡いでいきましょう。

次回は、シリーズ第4弾として「在宅での看取り」についてお話しします。